ラララ吉祥寺
「芽衣さん、今晩は木島さんの提案で湯豆腐です。
ちょっと薬味が足りないので、西友まで買い物行って来ますね。
芽衣さんは、何かいるものありますか?」
「ヨーグルトお願いできますか?
ダノンの「デンシア」ってやつです。
一日に必要なカルシウムの半分が取れるそうなんで」
昼食後、わたしが買ってきた「初めてのたまごクラブ」を読みふけっていた芽衣さんが、おもむろに顔を上げていった。
この雑誌を見つけるなり、
「文子さん、恥ずかしくなかったんですか!」
と芽衣さんに呆れられたわたしだけど。
「なるほど、今必要な情報が面白いほど手に入るんですね。
ちょっと過保護気味って感じもしますけど」
と結局は感謝されたのだ。
わたしは恥ずかしくって買えませんでしたよ、さすが年の功ですね、なんて憎まれ口をきく程に気力も戻ってきたようで安堵した。
「じゃ行ってきます。直ぐ戻りますね」
わたしはそう言い置いて家を出た。
本当は、芽衣さんを一人家に残して行くのは少し心配だったのだけれど。
通りへ出ると、スーツ姿にアタッシュケースを持った男性が地図を片手に辺りを見回しているのを見かけた。
セールスマンにしては身なりが良すぎる。
家探しかな、なんて思いながらその横を通り過ぎた。