ラララ吉祥寺


ハウスの中は冬だというのに暖かかった。


「これが茄子。こっちがトマト」

梅さんが土に汚れた皺のある手で指し示すハウスの中に設えられた苗床には、小さな可愛い苗が沢山育っていた。

横に立つ木島さんを覗き見ると、思いがけずに目が合った。

「ここでお願いするのは、ちょっとずるい気もするんですけど。文子さん、お願いがあります」

木島さんが急にかしこまってわたしに向き直った。

「え、はい?」

「庭に小さな畑を作ってもいいですか?」

「えっ? 家のあの小さな庭に?」

「小さくても日当たりは良いでしょう。

一畳くらいの広さがあれば、ちょっとした野菜畑が作れると思うんです。

苗は梅さんに分けて貰うことになってるんで」


ね、梅さん、と木島さんが同意を求めて振り返った。


「採れたての野菜は美味いもんじゃよ。土があるなら試してみるといい」


彼女はそう言って、大きな皺を刻み込んだ日焼けした顔を綻ばせた。

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