ラララ吉祥寺

「木島さんて、女性はみんな名前で呼ぶんですね」

そう言えば会った時から、木島さんはわたし達を文子さん、芽衣さんと呼んでいたなと思い出した。

最初はちょっと違和感を覚えたものの、慣れた今はそれが普通だ。

「そうですよ。

だって、女性は結婚すると姓が変わるでしょ。

そのたんびに呼び方変えるなんて失礼じゃないですか」

「そのたんびって……」

普通は一度だけじゃないかと。

「それに、名前で呼ばれる方が女性も嬉しいでしょう」

確かに近しい気分にはなるかもしれない。


梅さんは、フルネームを松井梅というらしい。

農家といっても、あの辺りにアパートを何軒も持っている地主さんなのだそうだ。

以前、蔵の整理に立ち会って以来のお付き合いで、時折寄っては話し相手になって貰っているという。

古い道具の使い方とか、野菜の育て方とか、昔の暮らしの話だとか。

漬物に関しての薀蓄は、梅さんから教わったことが多いのだと教えてくれた。


いくら話しても話のつきない魅力的にな女性ですよ、と木島さんは笑って彼女を褒めた。
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