ラララ吉祥寺

夜中、<コン、コン>と、扉を鈍く叩く音と。

「ふ、ふみこ、さ……」

消え入るような声が聞こえて、わたしは目が覚めた。

慌てて扉を開けようとしたけど、何か重いものが扉の前にあってびくともしない。

「ふみこ……さ、ん」

寝ぼけた頭で考え思い当たった。

「芽衣さん?! どうしました?!」

「お腹……、痛くて……、破水したかも……」

「えっ!!」

外にも出られないもどかしさにわたしが咄嗟に叫んだのは……。

「木島さん!! きじまさぁ~ん、おきてくださぁ~いっ!!!」

彼の名だった。

「文子さん、どうしましたっ! うわっ、芽衣さん! こりゃ不味いな」

兎に角下へ行きましょう、そう声が聞こえて静かになった。

わたしは扉に手をかけ開けてみた。


だけど、廊下はもうもぬけの殻。
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