ラララ吉祥寺
彼は単にわたしの気を静める為に抱きしめてくれたのだ。
木島さんはそういう人だもの。
「木島さん? わたしもう大丈夫です」
「あぁ……、もうちょっと」
「もうちょっと?」
それが何を意味するのか、どういう意図で出た言葉なのか。
わたしには皆目検討がつかなかったのだけれど。
「もうちょっとこのままで……」
そう言われて拒むなんてわたしにはできなくて。
わたしはそのまま、彼の大きな胸に身体を預けた。
「オギャァ……、オギャァ……」
ほどなく分娩室から、微かに赤ちゃんの声が聞こえてきた。
「生まれた?」
わたしは嬉しさと、ホッとしたのと、あといろいろごちゃ混ぜた幸せな気分に包まれて、さらにぎゅうっと木島さんに抱きついた。
「文子さん?」
「……ん、なんか幸せです」
「そっか、幸せですか。良かった」
自分が産んだわけじゃないのに、幸せを感じるなんてちょっと可笑しいけれど。
それほどわたしは満ち足りた気持ちで包まれていた。