ラララ吉祥寺
ふたり
「じゃ、僕は車を駐車場に入れてきます。
文子さんは、僕にかまわず先に休んでくださいね」
わたしを玄関先に降ろすと、車は通りを曲がっていってしまった。
暗闇に閉ざされた玄関を開けると、小次郎が音を聞きつけてやってきた。
「ただいま」
<ミャァ……>
と小さく声をあげて、尻尾を震わせ、小次郎はわたしの足をそっと撫でた。
「芽衣さんの赤ちゃんが生まれたよ。
小次郎、仲良くするんだぞ」
わたしはそう小次郎に話しかけると、そのまま階段に腰を下ろした。
小次郎はそのままわたしの横を通り過ぎ、二階へと階段を上っていく。
夜も更けたし、わたしが寝に上がるのだと思ったのだろう。
でも……、わたしはそこを動けずにいた。
何だか急に力が抜けてしまったのだ。
「赤ちゃんか……、小さかったな……」
暗闇に紛れて身を潜め、わたしは小さな心の痛みをやり過ごそうと身体を縮込ませた。