ラララ吉祥寺


「あ……」


抵抗する間もなく、わたしの身体は抱き上げられて彼の腕の中だった。

「ゆっくり眠るには癒しが必要なようだ」

そう判断したらしい木島さんは、わたしをそのまま居間に運んだ。

先日と同じように、壁を背にして胡坐をかくと、彼はその中にわたしを座らせた。

彼の膝の上で、後ろから抱きしめられて、わたしはそのまま目を瞑る。

それはとても自然な成り行きだったのだ。

「寒くないですか?」

「は……、い」

実際わたしは木島さんの体温で温められていて、寒さなんて感じなかったけれど。

彼はもしかしたら寒いのかもしれない。


「きじま、さんは?」

「この状況で寒いとかいったら、ばちが当たるでしょ」

僕だって一応男ですからね、と木島さんの腕に少しだけ力が入る。

「それって……」

わたしは思いがけない言葉に戸惑って、身を起こそうと身体を捩った。

「ほら、じっとして。

力を抜かないとリラックスできませんよ」

文子さんは臆病だなぁ、と木島さんが背中で笑う。

「大丈夫、何もしませんから安心して。僕は今、文子さんの安楽椅子ですから」

そう囁く声に安堵して、わたしは再び目を閉じた。
< 155 / 355 >

この作品をシェア

pagetop