ラララ吉祥寺

注文を済ませ、ガレットの焼き上がるのを待つ間、木島さんはわたしにいろんなことを話してくれた。

田舎の家を売ったお金で大学を卒業し、都心にマンションを買ったこと。

就職した商社での仕事の話。

学生時代から付き合っていた彼女と結婚したこと。

忙しいあまり、すれ違いの多かった結婚生活のこと。

自分の身勝手で彼女を不幸にしてしまったこと。

離婚した彼女に、その部屋を慰謝料として譲渡したこと。

自分はゼロからの出発を選んだこと。

「丁度その頃だったかな。

七井橋の上から池を眺める文子さんを最初に見かけたのは」

えっ、そんな昔、とわたしは聞いて驚いた。
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