ラララ吉祥寺

「芽衣さん、木島さんとわたしのこと、気付かなかったみたいですね」

ちょっと、ホッとしました、と病室を出るなりわたしは言った。

「そんなことないと思いますよ。

彼女は気付かない振り、してくれたんじゃないかな。

文子さん、そういの恥ずかしがるでしょ」

えっ?っとわたしは驚いてしまう。

「彼女はそういうとこ、凄く気を使ってくれてると思います。

根がとても優しい人なんですよね、きっと」

僕も助かりました、なんて笑う木島さん。

「あそこで突っ込まれたら、文子さんの気持ちが一気に引くでしょ。それは困る」

さて、今日はこれから何しましょうか? と聞かれ、

「畑に水遣りしないと」

と、わたしはなんとも色気のない返事を返してしまった。

今日は朝からバタバタしていて、水遣りを忘れていたのだ。

「そうだな、そろそろ弦も伸びてきたし、畑の手入れでもしましょうか」

勿論、一緒にね、と木島さんがわたしの肩を抱く手に力を込めた。

そして、電車に揺られ吉祥寺へ戻る。

「夜は二人でお祝いしましょう。俊一くんの誕生祝い」

途中、晩酌にと、エノテカでお手ごろな白ワインを買って帰った。
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