ラララ吉祥寺

家に戻ると早々、長袖TシャツとG短パンに着替えた木島さんは、畑仕事に取り掛かった。

長い梯子を持ち出して、ベランダにかけ、屋根から吊った網に這わせたヘチマとゴーヤの弦が、お互い絡み合わないよう綺麗に整えた。

「この調子なら、夏には二階まで伸びるでしょう」

木島さんは平然と高いとこからわたしに話しかけるけど、わたしは上を見上げるのも怖くて俯いていた。

高いところは苦手なのだ。

地上で梯子を支える手にも自ずと力が入ってしまう。

わたしが高いところが苦手なことがわかると、木島さんはわざと梯子の上でふざけて見せてわたしをハラハラさせた。


それから二人で畑の草取をした。

わたしが雑草を抜く後から、木島さんは手馴れた手付きで、畝の両側をスコップで少し掘り起こしていく。

「土が固くならないようにね。根にもミミズにも酸素は必要ですから」

そして、赤く実ったトマトを二つ、茄子を一本収穫した。

「これで夜は僕がパスタを作りましょう」

そう木島さんが提案してくれて、夕飯のメニューを失念していたわたしは願ったり適ったり。

なんだか至れり尽くせりの一日だ。
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