ラララ吉祥寺

「僕はカラスの行水ですからね。文子さん、どうぞお先にお風呂入ってください。

その間に、夕食の下ごしらえしときますから」

そう促されて、わたしは今、一人湯船につかって考えていた。

木島さんがわたしに言った言葉の意味を。


『僕は文子さんが好きなんです……』

『……どんどん迫りますから。覚悟してください。力ずくで拒否られない限り止めませんから』


手を繋いだり、肩を抱いたり。

確かにいつもよりはスキンシップが多いけれど、木島さんの態度はあくまで紳士的で。

迫るって、何を?

って、やっぱりアレだよね、男と女の究極のスキンシップ。

いやいや、それとも先ずは軽くキス?

ただの同居人の枠からはみ出そうとする彼を、わたしは力ずくで拒否するべきなのかな。

もがいたくらいじゃ、とても適わない気がするし。

やっぱ、全力で平手打ち?

でも、どういうタイミングで?

キスされたくらいで平手打ちなんて、なんだかあまりにお子様みたいだし。

じゃ、受け入れるの?

今の関係が変わってしまってもいいの?

考えれば考えるほど、思考は空回りして。答えは見つけることなどできなかった。

そもそも、彼が無理矢理わたしに迫ってくるなんて想像できなかったし。

彼の意味する愛着が、もっと別の関係なのかもしれないと思ったのだ。

一人で考えていても仕方ない。


わたしは一旦思考を止めて、お湯から上がった。
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