ラララ吉祥寺
「文子さん、こっちこっち!」
何処からか、わたしを呼ぶ声が聞こえてきた。
「こっちですよ」
その声が後ろからだと気がついて、振り向いた。
そこには、店の入口から身体半分覗かせてわたしを手招きする木島さんの姿があった。
あれっ? 確かここって……、昔クリーニング屋だったとこじゃないかな。
公園の何件か向こうに、外壁を板張りで飾った居酒屋ができていた。
それより何より、わたしの不安を見越したように現れた木島さんに驚いた。
だって、まだ、十五分も前だったのだ。
「何処行くつもりだったんですか、吉祥寺公園はそこでしょう?」
わたしが踵を返して来た道を帰りかけていたのを見咎められていたようだ。
「早く着きすぎちゃって……」
「だと思いましたよ。早く戻れて良かったです」
そう言って笑う木島さんについて店の中に入った。
入口付近にはキッチンを囲うようにカウンターがあり、その奥にはテーブル席がいつくか。
店内は人で一杯だった。
「木島さ~ん、こっちですよぉ」
さらに奥から、呼ぶ声が聞こえてきた。
「おっ、文子さん、うちの田中くんですよ」
「えっ?」
「よく仕入れ帰りに寄るんです、このお店。
でも、いつも結構混んでるんで、田中くんに先に行って、席をとって置いてもらったんですよ。
さ、行きましょう」
肩を抱かれて歩き出した。
なんだ、二人でデートじゃなかったんだ……
少しだけがっかりする自分がいた。