ラララ吉祥寺
奥のテーブル席では、田中くんが首を長くして待っていた。
「木島さん、遅いですよ。僕、お先にビール一杯もらってます」
少し顔を上気させて、田中くんはビールジョッキを片手で上げて見せた。
彼は、亜細亜大学で経営学を学ぶ学生さんだ。
HPを作るため、龍古堂に通った時に少し話して仲良くなった。
将来の夢は会社経営。
といっても、小さな自分の店を持つことが彼の目標なのだそうだ。
「僕、ずっと不思議だったんですよね」
「えっ、何が?」
「木島さんの周りに、女っ気が全然ないのが」
一時、もしかしてあっち系かな、なんて疑ってみたこともある位なんです、と田中くん。
「ひどいなぁ」
なんて木島さんはいつも通り、笑って受け流していた。
「でも、文子さん見てたら納得です。
あぁ、こういう人が好みだったのかって」
田中くんは酔いも手伝って、饒舌だ。
「それってどう受け取ったらいいのかな?」
大人気ないとは思ったけれど、わたしの言葉には少し険があった。
自分でも自覚しているけれど、わたしは全然女らしくないし美しくもない。
でも田中くんは、あっけらかんとして笑って言う。
「勿論、良い意味ですよ。
文子さんって、年齢不詳というか。
見た目は若いけど、落ち着いているというか。
化粧っ気が全然無いのに、妙に色っぽいし。
何かに例えようのない、文子さんらしさというか……」
そっか、それって……、と妙に納得した様子の田中くん。
「それって、僕が木島さんに抱く感覚そのものなんですよね。
こんなふざけたつなぎ着た古道具屋の主の癖に、妙に物知りで、何でも出来て。
木島さんから感じる、肩書きとか、組織に縛られない自信みたいなもの」
尊敬してるんです、と田中くんの熱い眼差しが、そのまま真っ直ぐ木島さんに注がれた。