ラララ吉祥寺


「田中くんは、僕を買いかぶり過ぎだよ」


妙に懐かれてましてね、なんて木島さんが困ったように頭を掻いた。

彼の下宿は西荻駅から十五分ほど北に下ったところにあって、地理的に近いこともあり、時間に余裕のある時にはいつも店に居るという熱心さ。

「自給安いんで、申し訳ないんですけどね」

と、木島さんが言えば。

「いえいえ、それ以上に得るものが沢山ありますから」

なんて、若者らしからぬ受け答えに、木島さんとわたしは顔を見合わせて笑ってしまった。


「ご馳走さまでした」


丁寧に頭を下げる田中くんと店先で別れた。

彼は酔い冷ましに、ここから下宿まで歩いて帰るという。

足元気をつけて、とわたしが言うと、文子さんこそ、と返されてしまった。

このお店の名物「鳥のもも焼き」が美味しくて、かつお酒の種類が多くて嬉しくて、ついつい飲み過ぎてしまったのだ。


面目ない。
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