ラララ吉祥寺


驚いて振り返ると、そこにはスーツ姿の男性が立っていた。


いったい何処に潜んでいたのだろう?

今しがた通った時には気付かなかったけれど。


「君は、花岡芽衣を知っているだろう?」


その男は、唐突に芽衣さんの名を口にした。


「君は、彼女と一緒に住んでいるんじゃないのか?」


その口調はあくまで詰問型で、木島さんを咎めているようにしか聞こえなかった。


「彼女は妊娠していたじゃないか。

彼女は何処だ?

その女は誰だ?」


今にも木島さんに掴みかからんばかりの勢いで、その男は彼に迫ってきた。


「きゃ……」

と、小さな悲鳴を思わず口を押さえて閉じ込めた。

木島さんが有無を言わさず、その男の鳩尾に拳を当てたのだ。

声も無く倒れこむ男を、木島さんは片腕で抱え込むと、そのまま彼の腕を肩にかけて歩きだした。

「文子さん、驚かせてすみません。

このまま彼を家に連れて行きます。

大丈夫、僕が責任持ちますから、心配しないで」

その言葉に頷いて、わたしは彼の先を玄関へ向けて急いだ。
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