ラララ吉祥寺

「花岡っ!」

何度目かの木島さんの呼びかけに、男がやっと反応を示した。

「うっ……、うわっ!」

木島さんの覗き込まれて仰け反った彼が大声を上げたのだ。

「ここは何処ですかっ! 貴方達は僕に何をっ!」

木島さんに掴みかからんばかりの勢いで、花岡さんが体勢を立て直そうともがき出した。

「花岡、俺だ。わからないか、木島だ、木島龍之介」

「えっ? 木島さん?」

そう言えば……、と木島さんの顔を今度はまじまじと覗き込み、その男はやっと納得し大人しくなった。

「もう退社して五年になるかな。

俺もいろいろあって、今は隣りの西荻窪で古物商を営んでいる」

「そうなんですか……。

って、そんなことはどうでもいいです。

それより芽衣のことですよ。

芽衣は何処です。

ここ数日、姿が見えなくて……」


なんだお前、こっそり見張ってたのか、なんて暢気なことを口走る木島さん。
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