ラララ吉祥寺
それでも木島さんは、彼を許しはしなかった。
「そんな話を俺は聞きたいんじゃない。
お前があの娘を大切に思っていたのは知っているよ。
入社したてのあの頃、お前が二十三、芽衣さんは十八。念願の大学に受かった彼女をお前は誇らしげに俺に自慢していたじゃないか。
二十歳そこらの若造に、なまじっかな決意で親代わりなんて大それたこと出来る訳がない。
お前の苦労や苦悩は良く判る。
だがな……、
お前は責任という言葉を履き違えている。
お前を信じて交わった、彼女の気持ちはどうなるんだ。
お前の彼女を大切に想う気持ちは愛じゃないのか?
彼女の方がよっぽど肝が据わってる。
彼女は全てを受け入れて、一人で子供を育てる覚悟なんだぞ。
お前が今、取るべき道はひとつだろ。
何を戸惑うことがあるんだ!」
「僕は……」
「もういい、わかった。
だがな、そんな中途半端な気持ちで彼女の周りをうろつくことは俺が許さん。
お前に覚悟が無いのなら、金輪際、彼女の前には現れるな!」
尚も口ごもる花岡さんを目の前に、木島さんはそう言い放ったのだ。
いやそれはちょっと言い過ぎでは……、とわたしはハラハラしてその様子を見つめていたのだけれど。
「心配するな、これも何かの縁だ。
俺とこの文子さんが、お前の妹と甥っ子の面倒は見てやるよ」
殊更に、<妹>と<甥っ子>の部分を強調させ、木島さんの口調はあくまで冷めていた。
その後、木島さんは追い立てるように花岡さんを帰らせた。
二度と来るなよ、の捨て台詞を付け足して。