ラララ吉祥寺
花岡さんが帰ってしまった後で、わたしは心配になった。
「木島さん?
いいんですか、あんな言い方してしまって。
ほんとにもう二度と来なかったら、芽衣さん……」
木島さんを責めるつもりはなかったのだけれど、彼を追い返すような結果になってしまったのは確かだった。
「文子さんはどう思いましたか?
あいつはもう来ないと思いますか?」
わたしの心配とは裏腹に、木島さんは至って冷静で、笑顔さえ浮かべていた。
「それって……、また来るってことですか?
そうなれば嬉しいですけど」
わたしは彼の意図が読みきれずに反対に問い返した。
「そもそもここに来た時点で、あいつの気持ちは八割かた固まっていたと僕は見ていますよ。
あいつに必要なのは、きっかけなんです。
僕の言葉であいつも気付いた筈です。
芽衣さんを失うか、手に入れるか、選択は二つに一つだということをね。
大きな組織に囲われているうちは、世間の常識とか体裁に囚われて、本当に大切なことが見えなくなるものです。
僕自身がそうだったんで、良く判ります。
一度は妹だった芽衣さんと結婚することに後ろめたさがあるのなら、全てを一度捨てればいいんだ。会社も世間のしがらみもね。
芽衣さんは既にそうしているでしょう。
あいつの元を離れて、未婚の母になる道を選んだ。
そういうところ、男より女の方が潔いですよね」
男は案外女々しいものですよ、と木島さんは笑って言った。
「まぁ、見ていて御覧なさい。あいつはきっと戻ってきます。
あれだけ大事に慈しんできた彼女を、あいつが手放す筈がないでしょ」
彼の言葉は確信に満ちていた。