ラララ吉祥寺
聞けば、木島さんはもう何ヶ月も前から、家の前を行き来する彼の姿に気付いていたという。
向こうは僕に全く気付く気配はありませんでしたけどね、と木島さんは苦笑した。
もうわたしの酔いはすっかり冷めていて。
突然現れた芽衣さんの兄の存在に、わたしの心は掻き乱されていて。
今更甘い気持ちで木島さんに向き合うなんて出来そうになかった。
「彼の知っている僕は、所謂世間一般でいうエリートで。海外営業を遮二無二こなす仕事の虫でしたから。
こんなところで僕に再会して、面食らったでしょうしね」
「全然想像できません……」
殆ど上の空で応えていた。
「それでいいんですよ。
まぁ、一般的には、そういうエリートを好む女性が多い世の中ですけど」
文子さんがそうでないことを願いますよ、と木島さんが小さく呟いた。
その声が妙に寂しく響いて、わたしは急に現実に引き戻される。
木島さんの目は、何処か遠くを見つめているようだった。