ラララ吉祥寺

「だって、もう朝ですし。朝食の仕度をしないと……」

「俺も手伝うから、そう慌てることないだろ」

そう言いながら、彼はぐっとわたしを自分に引き寄せると、肩に顔を埋めて囁いた。

「おはよう、良く眠れた?」

「はい、もうぐっすり」

その甘い響きに戸惑いながら、なんとか強気で返事を返した。

「ドキドキしたりはしないわけ?」

「ドキドキというより……、安心できるみたいです」

その証拠に夢も見なかったし。

「それは喜んでいいのかな」

じゃこれならどお? といきなり、木島さんが身体を起こしてわたしの反対側に体勢を入れ替えた。

目の前には木島さんの笑顔。

「えっ、それ反則ですよっ!」

必死に両腕を伸ばして抵抗するも空しく、木島さんはわたしの唇に触れるだけの優しいキスをした。

「さ、もう起きないと、やばいやばい。また田中くんに先をこされちまう」

何故か急に慌て出した木島さん。

彼はそのまま起き上がると大きく伸びをした。

「今日も良い天気みたいですよ。芽衣さんの退院の日も晴れると良いですね」

じゃ、僕はお先に、と木島さんは部屋を出ていった。

それはもう、あっさりと。

わたしはのそのそ布団から這い出ると、昨夜脱ぎ散らかしたジーパンとセーターを拾い集めて身につけた。
< 209 / 355 >

この作品をシェア

pagetop