ラララ吉祥寺
「やっぱり居ましたね」
産科病棟の新生児室のガラスの前で、食い入るように赤ちゃんを見つめる花岡さんを見つけて木島さんがわたしに囁いた。
「ちょっと脅かしてやりましょう」
そう言って、木島さんはわたしの隣りから抜け出ると、大またで彼の後ろに回りこみ、おもむろに彼の肩に両手を置いた。
頭半分、木島さんより背の低い花岡さんの身体全体が大きく揺れた。
それだけでも十分な威圧感なのに、更に木島さんは、彼の耳元で何か囁いた。
俺の言葉を忘れたのか?
それとも、もう十分だろ?
何と囁いたのか、わたしのいる場所からはその内容など聞こえる筈はなかったけれど。
きっと、凄いドスの聞いた鋭い言葉が投げられたに違いない。
明らかに怯えた彼は、木島さんが肩から手を離すと同時に、その場から逃げるように消え去った。