ラララ吉祥寺
「文子さん」
病室に入るなり、芽衣さんの弾けるような笑顔が待っていた。
「聞いてくださいよ、やっとお乳が開通しました!」
えっ、どういうこと? と怪訝な顔付きのわたしを目の前に、芽衣さんが誇らしげに説明を始めた。
「つまりですね、乳腺から分泌されるお乳も初産の場合、最初は出口が塞がれているわけですよ。
マッサージとかいろいろしてたんですけど、実際には子供が吸って始めてその道筋がつけられるというか。
俊一の吸う力が弱くてなかなかお乳が出なかったんですけど。
今日やっと、吸われたって感じがして、体重測ったら少し増えてて。
それからはもう、なんかこう、お乳が溢れて痛いくらい。
これが乳が張るって感覚なんですねぇ」
そう言って芽衣さんは、腕の付け根を軽く押さえるように擦った。
「良かったですね」
「ほんとギリギリセーフでした。
退院までにお乳が出なかったら、人工乳に切り替えようかと思ってたんです。
初乳を飲ませた方が免疫力がつくとか言うじゃありませんか。
焦りました」
それから、明日の退院と市役所への出生届の段取りを打ち合わせた。