ラララ吉祥寺
「母が亡くなって、遺産を整理する必要があって。
始めて、この土地の一部が他人名義になっていることに気付きました。
それが貴方です。
全く事情がわからず、ただ困惑するばかりで……
わたしは母から、父親のことについては何一つ聞かされていませんでした。
幼い頃から、聞いてはいけないと思い込まされていたようにも思います。
それが今になって突然。
何故なんですか?」
わたしは、わたしの知らない二人の関係を計りかねて戸惑っていた。
「確かに、僕達は正式な結婚はしなかった。
宏子が君を授かった当時、僕は駆け出しの画学生でね。
それが運よくコンクールで賞を取って、フランスに留学が決まって。とにかくバタバタしていたんだ。
でも婚姻届を出さなかった理由はそこじゃない。
宏子が言ったんですよ、同じ山本なんだから意味が無いってね。
確かに僕達は偶然苗字が同じだったから、婚姻届を出しても表面上は何ら変わりはない。
いくら僕達が若かったとはいえ、子供が生まれるとなれば色々問題もあることはわかってました。
でもね、宏子は時々、そんな屁理屈をこねて妙な拘りを通す癖があったんですよ。
だから僕は宏子がここに住み続けることを条件に、賞金でこの家を買って、土地の一部を僕の名義にした。
フランス留学は一応二年と決まっていたけれど、その後活動の拠点を何処にするかは未定だったからね。
たとえ僕が直ぐに日本に戻れなくても、宏子と子供が生活に困らないよう僕なりに考えた結果だったんですよ」