ラララ吉祥寺
「いやぁ、僕の絵を見てくれたとは嬉しいな」
食卓を囲んで、何故か木島さんと父の話は弾んでいた。
なんでも、父の絵はフランスでは結構人気があるらしい。
木島さんは何度か訪れたフランスの地で、友人に連れられて現地で展覧会を見たことがあるらしいのだ。
「外国で活躍している日本人は、同郷意識が強いですからね。
商社にいると嫌でもそう言う話は耳に入ってくるんですよ。
だから、文子さんから山本太郎、って名前を聞いた時も、もしやと思ったのですが。
日本人にしたらごくありふれた名前だから、確信が持てなかったんです」
「賞をとって認められたのがフランスだったからね。
まぁ、僕は絵さえ描ければ、住むとこなんて何処でも構わないんだが。
でも今回初めて、日本で展覧会を開くことに決まってね。
それが、この街にある『吉祥寺美術館』で、話を貰った時は驚いた。
だから、宏子のこともあって、よい機会だから一度帰国してみようと思ってね」
「奥様のことは、お気の毒でした」
「彼女に心残りはなかったと思う。いや思いたい。あるとしたら、それは僕の方だな。
彼女の優しさに甘えて、ずっと放っておいたのだから。
気持ちは通じ合っていたという自負はあるが、結局何もしてやれなかった。
生活もここ十年は安定していて、日本に帰ろうと思えば帰れたんだ。
今更ながら悔やまれるよ」
木島さんは山本氏を、わたしの父として、何より海外では名の知れた画伯として、うやうやしく扱ってくれた。
そんな彼がいてくれたからこそ、わたしも父を素直に受け入れることができたのかもしれない。