ラララ吉祥寺
「花岡、もう一押しだ」
わたしの後ろから更に木島さんの大きな声が響いた。
ハッとして顔を上げた花岡さんと芽衣さんの眼差しが重なった。
その瞬間、
「芽衣、俺と結婚して欲しい! 必ず幸せにする!」
彼はそう言って左手に持っていた花束を芽衣さんに差し出したのだ。
今の季節にはまだ少し早い、桔梗の花。
芽衣さんはその花束を右手で取ると小さく呟いた。
「……変わらぬ、愛」
みるみる溢れ出した涙が、彼女の頬を伝って落ちた。
「芽衣、返事は?」
言葉にならない唇の動きが、花岡さんの唇で塞がれた。
崩れそうになる彼女を彼はしっかりとその腕に抱き留めた。
<パチパチパチ……>
足を止めて二人の様子に見入っていた回りの観衆から、小さな拍手が起こった。
わたしも釣られて手を叩いていた。
ここは公衆の面前、それも病院の正面玄関先だ。
花岡さんも、いくら気が急いていたとはいえ、大胆な行動に出たものだ。
ま、それを煽ったのは木島さんだけど。
終わり良ければ全て良し、わたしはホッと胸を撫で下ろした。