ラララ吉祥寺
「いい機会です。一緒にフランスへ行きましょう。
でもって、気に入ったら暫く居るといい」
「えっ?」
なんなら新婚旅行ってことでも良いですよ、貴方さえ良ければ、なんて木島さん。
「えっ?」
驚くわたしを目の前に、木島さんの顔が心なしか赤らんだ。
「いや、そんなついでみたいなプロポーズは良くないな」
「プ、プロポーズ?」
そんなに驚かないでくださいよ、僕は真剣なんですから、と木島さんは表情を引き締めた。
「大丈夫、貴方が何処へ行っても、僕はちゃんとここで貴方の帰りを待ってます。
作膳と小次郎の世話も任せてください。
貴方はお母様の居なくなった心の隙間をきちんと埋める必要があると思いますよ。
お父様と一緒にね」
愛しています、と重ねられた唇。
そっか。
となんだか妙に木島さんの言葉が腑に落ちた。
気ぜわしく過ごしてきたこの半年の間に、母を突然失ったわたしの心の隙間は確かに少しずつ埋められてはいたのだけれど。
彼女の死を共有する誰かを持たなかったわたしは、結局その隙間を持て余して、どこか中途半端な気持ちがついて回っていたのだ。
芽衣さんの出産に付き合うことで、過去の自分に向き合って。
木島さんに惹かれることで、母の恋に思いを馳せることができた。
そうだな、あとは父と向き合って、空白の親子の時間を埋めれられたら素敵だな。
「でも、わたし、ここが好きです」
「うん、わかってる」
「木島さんや芽衣さんと暮らしたこの半年間は、わたしの人生の中でもとっておきの素敵な時間だったので、今更引き返せません」
「文子さんは大袈裟だなぁ~
納得できたなら直ぐに戻ってくればいい。
僕だって、一人待ってるのは寂しいですよ」
木島さんの腕の中にすっぽりと収まって、わたしはとても満たされた気持ちでいた。