ラララ吉祥寺
それからアルルに三泊して、わたし達は帰国の途についた。
この旅で、木島さんとわたしの距離は一挙に縮まった。
ずっと抱かれて眠った、夢見心地の夜。
離れて暮らした父との蟠りも、彼の腕の中でなら難なく受け入れることができた。
実際、この短い間に父の人となりと生き方を、彼を通してより深く見れたように思う。
父が何故、母と離れてまでも彼の地で絵を描き続けたのか、それがわたしにも納得できたから。
寧ろ、頑なに日本に留まろうとした母の気持ちがわからなかったくらいなのだ。
「文子さんは、暫くここに残ってもいいんですよ」
そういうわたしも、木島さんの勧めを断って、みんなと一緒に帰国した口なのだけれど。
夢は夢、現実は現実。
絵を描く情熱に浮かされた父と。
言葉の壁や見知らぬ土地への不安しか頭に浮かばなかった母。
遠く離れても命を愛で、優しさを絵に注ぎ込んだ父と。
わたしを抱きしめて、しっかりと現実を生きた母。
女は何処までも現実的な生き物なのかもしれない。