ラララ吉祥寺

そして六時五十五分、玄関の呼び鈴が鳴った。

シャドーさんは時間に正確な人らしい。

「はい」

『あの……、この家にサゼンって人いる?』

インターフォン越しに聞こえたのは、戸惑いがちな若い男性の声。

というか、不躾な若者って感じ?

「あ、はい。シャドーさんですか? どうぞ奥へお入りください」

出迎えに向かうわたしの後から木島さんもついてきた。

「若い男か……、予想外だな」

「どうしてですか?」

「いや、なに……、男は警戒心が強いからな。

よほど自分に自信がなけりゃ、危ない橋は渡らないもんさ」

「それって、木島さんは凄い自信家って聞こえます」

「僕はもう三十七ですからね。

ある意味世間の荒波に揉まれてきたツワモノですよ。

若い男は、って話です」

「そうなんですか?」

「だって、家出少女は良く聞くけど、家出少年って聞かないでしょ。

だいたい男は外じゃなくて内に篭る。警戒心が強いから守りに入る。

所謂引き篭もりですよ」

「っていうことは、彼は極まともな青年、ってことじゃないですか?」

「かもしれないね」
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