ラララ吉祥寺
そんな話をしながら玄関まで出迎えにくると、目の前でガラリと引戸が開けられた。
「っちわっ! って、ボロっ!」
現れたのは、年の頃二十歳前後の青年。
というより、まだあどけなさの残る少年。
背はわたしより少し高く。細身。長髪。
ジーパンにTシャツ、その上にスウェットパーカーを羽織っただけの軽装だ。
荷物は見るところ背中にしょったデイパック一つだけ。
「いらっしゃいませ」
わたしは頭を下げて、丁寧に挨拶をした。
だって、それが来客に対する礼儀だから。
「あれ? もしかして、そっちのオジサンがサゼンさん?」
それなのの、彼の視線はわたしの隣りに立つ、無駄に大きい木島さんに向けられた。
「いや、僕は下宿人です。家主はこちらの文子さんですよ」
「家主の山本文子です」
「あ、俺、シャドウ」
「君、ここはリアルだから、本名を名乗りたまえ」
「えっ? そういうルールなわけ?
ま、いいけどさ。
俺、影山拓馬。オジサンは?」
「僕は木島龍之介。隣りの西荻窪で古物商をやっています」
「ふ~ん」
「で、君は中を見るつもりがあるの? それともボロだから止める?」
「一応見ていい? 上がっていいすか?」
言葉のぞんざいさに反して、その少年はタタキに脱いだ靴をキチンと揃え、わたしの後を静かについて来た。