ラララ吉祥寺

「あれ? 影山くん?」

「はい?」

声のする方に目を向けると、床に座って屈み込む彼の背中があった。

「電波は良好だな。文子さん、ワイヤレスのパスワードは?」

「tangesazen」

「お~っし、これならいける。問題無しだ」

彼は顔も上げずにひたすらキーボードを叩いていた。

「影山くん?」

「あ、俺、今日からお世話になります」

「えっ? だって、ボロいって、面倒だって、言わなかった?」

「皿洗いくらい、母さん生きてた時はやってたし。

ボロくても、ネットに繫がれば問題ないし。

それに、ちゃんと食ったら、まだ背、伸びるかもしんないでしょ?」

座り込んで動かないその姿を、暫く呆然と見つめていた。

「そろそろ、下、おりませんか?」

気がつくと、木島さんがドアのところに立っていた。

「おっ、青年、もう居座る気か?

まだ気が早いぞ。本人確認がまだだ。

それに、この下宿の取り決めに、一通り同意して貰わなきゃならん」

「取り決めなら聞いたよ」

本当ですか? と木島さんがわたしに聞いてきた。

わたしは小さく頷いて見せる。

「それでも……、先ず下に来てきちんと話をしろ」

木島さんの厳しい声に、影山くんは肩を強張らせ、静かに顔を上げた。
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