ラララ吉祥寺
食欲と性欲
「なんか訳有りですね」
木島さんが小さな溜息をつきながら、わたしの方へ振り返った。
「ですね。でも、暫くは様子を見ることにします」
「僕もツテを頼って、少し調べてみますよ、彼のこと」
「えぇ~、そんなことできるんですか?」
「年齢と卒業高校が分れば、何かわかるでしょ」
あれは東京では有名な進学校ですよ、と木島さんが言う。
「東大進学者数全国上位を誇る名門校に通っていたんだ、彼もそれなりの頭脳の持ち主でしょ。
そんな自慢の息子の消息を気に留めない親がいるかな?」
頭が良いから自慢の息子、という木島さんの単純な発想には素直に頷けない。
それより何より、彼の慌てた様子が気に掛かっていた。
何ヶ月もわたしの下宿人募集のつぶやきを、あのパソコンの画面に映し出しては考えあぐねていたに違いないのだ。
その彼が、今日、即決で入居を決めてここに居る。
彼は、本当に居場所を求めて彷徨っていたのかもしれない。
私は木島さんの存在さえ忘れて、しばし物思いにふけっていた。