ラララ吉祥寺
「でも、僕、ここに居ていいのかな?」
「えっ、なんで?」
「だって、子供が生まれたら子供部屋がいるでしょ」
「生まれるって、暫くは赤ちゃんだよ。拓馬君はそんなことより、ちゃんと勉強してる?」
「してますよ」
拓馬君は木島さんの勧めで、来年、大学を受験することに決めたのだ。
起業するにも、社会人としての常識を得る為にも、大学へ行って勉強することに意味があると、あんなに毎晩力説されちゃね。軽く受け流すには重過ぎる。
彼のトレーダーとしての実績は、感に頼るところが大きいのだそうで。
彼の理論をきちんとした形で理解して実証できるような、高度な知識を持つ教授のいる大学を二人で懸命に探して辿りついたのは、アメリカの大学だったのだ。
いきなり留学? って驚いたけど。
有名私立高校に通っていた拓馬君は、やはり勉強もかなりできて、お父様の仕事の関係で海外経験もあるそうで英語もペラペラ。
所謂バイリンガル。
という訳で、お父様との関係も自ずと復活し、来年九月の入学を目標に、目下猛勉強中。
奥様を突然の病で亡くされた拓馬くんのお父様は、その寂しさに息子と二人で向き合うことが出来なかった。
拓馬くんも、そんな父親の弱さに引きずられるのが嫌で家を飛び出した。
二人共、彼女の死を受け入れるのに時間がかかっただけなのだ。
また向き合える今、二人には新たな絆を紡いでいって欲しい。
「赤ちゃんの顔見てから行きたいなぁ」
屈託ない彼の笑顔にその未来を思い描く。
「どうかな、微妙だね」
どうやら彼にとって私のお腹の子は、兄妹のような存在らしい。
不思議な縁だ。
大切にしたい。