ラララ吉祥寺
「で、機織機は無事譲ってもらえたんですか?」
「う〜ん、それが駄目でね」
「えっ?」
なんだか少し浮かれ気味の彼の様子を見て取っていた私は、意外な返事に言葉を詰まらせてしまう。
「でも、なんだか嬉しそうですよ」
「それがね、」
と彼は嬉しそうに目尻に皺を一杯に寄せて私に話し出す。
何度も木島さんが通って話を聞いているうちに、岩城家の九十になる御姑さんが急に機を織ってみると言い出したんだそうだ。
その勢いに圧倒されてお嫁さんが色々調べて糸を買ってきて、御姑さんの指示に従って糸をかけた。
それから彼女は何かに憑かれたように機を織り出したんだそうだ。
「昔はそうして、自分の着物は自分で生地から織り上げた。凄いことだろ」
床に伏し勝ちだった御姑さんが元気になったとお嫁さんも喜んで、お土産に野菜を沢山持たせてくれたんだとか。
「でも、野菜は売れないじゃないですか。
仕入れは失敗ってことでしょ?」
「まぁまぁ、話はそこで終わらないんだ」
茄子の天婦羅を揚げながら木島さんが更に嬉しそうに話を続けた。