ラララ吉祥寺
「僕はね、母親に捨てられたんです。
僕の父は、僕が生まれて直ぐに事故で亡くなって。小学校に上がる前までは母と二人で暮らしていました。
父方の祖父母が近くにいて、母が仕事に出かけてる間は、何かと面倒を見てくれていました。
それがある日突然、母は僕を置いて居なくなったんです。僕は祖父母の家に置き去りにされました。
まぁ、母が何日も家を空けるのはいつもの日常の範囲内で、取り立てて僕の生活に支障はなかったわけですが。
でも、いくら待っても母は戻らなかった。
随分と後になって、祖父に、母が僕の知らない男性と再婚したのだと聞かされました」
「木島、さん?」
「僕が言いたいのはですね、つまり、子供は大人の都合で振り回されるんだってことです。
悪意が有る無しに拘らず、です。
大人になった今、僕には母の置かれた立場を理解して、同情する余裕があります。
けど、子供の頃は正直言って、寂しかった……」
「木島さん、もういいです。わかりました」
わたしは、そんな話を木島さんにさせたい訳ではなかった。
「僕が、文子さんに誤解されたくないんです。
だから、もし、芽衣さんが産むと決めたなら、僕だって全力でサポートする気持ちはあるってこと、わかっていて欲しくて。
生まれてくる子供に、寂しい思いはさせたくありませんからね」
「わたしは……、わたしは母一人子一人でしたけど寂しくはありませんでした。
母はいつもわたしを最優先にしてくれていたし、慎ましくはあっても何不自由無く暮らしていましたから。
だから……、だからわたしも、一人でだって子供は育てられるって……」
「文子さん」
感極まって咽出したわたしの口を、彼はその手でそっと塞いだ。