*政略結婚*
序章
カコン、カコンと、一定のリズムで鳴り響く竹筒。
その側には、沢山のいろ鮮やかな鯉が優雅に統べる池。
周りは、樹齢何十年といった松の木が、等間隔で数本植えられている。
その日本風景を一望する一つの和室に、ただならぬ空気を纏ったひと組の一行がいた。
右側には、ぴっしりとスーツを着こなす男。
左側には、高く結い上げた髪に桜の簪を指し、薄ピンクの色合いを混ぜた綺麗な着物を纏った女性が座る。
そしてらそれぞれ隣には、中年の男女が同伴している。



「…それでは、このお話はお受けできないと?」

「はい」


着物を着た女性は、力強い眼差しで相手の母、喜美江に頷く。

「わたしには、既に心に決めた方がいらっしゃいます。
今回の申し入れは、大変ありがたいとはおもっています。
しかし、どうしても、わたしはかの人と結ばれたい。
失礼とは存じております。
どうか、ご理解下さいませ」



少し後ろへ後退すると、ゆっくり頭を下げ、懇願する。

彼女の名は 中塚 由香(なかつか ゆか)26歳。
家系は一般サラリーマン。
特にお金持ちでも、お金がない貧相なわけでもなく、至って普通。

そんな彼女に、これから多大な問題が勃発するとは、この時誰も予想していなかった。



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