鬼姫の願い
初めて見た、彼女の涙。
男勝りで勝ち気で。政も兵法もそつなくこなす彼女は、泣くことなど一度もなかった。
伊達家に嫁いできてからも、どんな噂が流れても。
彼女は泣くどころか弱音一つ吐くことはなかった。
そんな彼女の初めての涙。
息子の為を思い流す母の、奥州の奥としての涙。
その瞳には確かな想いが宿っていて。
輝宗は何も言葉を返すことが出来なかった。
その揺らぐことのない瞳に、彼女の決意と覚悟を見てしまったから。
そういえば、と思い出す。
彼女はどんな悪い噂も否定することをせず、噂話をする輩を咎めることもなかったことを。