鬼姫の願い
《梵天丸様のもとに参られた様子》
今まで一度たりとも離れを訪れる様子などなかった義姫が、梵天丸のもとへ現れた。
何故今なのかと輝宗は思う。
義姫が杉の目城を訪問し先代と面会をしたという旨の報告を輝宗が受けたのは数日前のこと。
何故、今なのか。
義姫は一体何を話しに晴宗や杉の目御前に会いに行ったのか。
(まさか、な…)
そう思いながらも輝宗の背中に流れる嫌な汗。
決して何もないとは言いがたい現状に景綱の顔からも血の気が引いていく。
輝宗は景綱の言葉を最後まで聞くことなく、梵天丸の眠る離れへと駆け出した。