魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−
「それに響先輩より、まだお兄の方がマシですよ。だから“今は”見逃して上げます。」
紗枝は響と同じく覗き込むように中庭を見る。
「でも後で、罰はきちんと受けて貰わないと駄目ですけどね。」
外見は虫も殺せない顔をしているのに『ふふふ。』と無邪気に笑う紗枝の中身は真っ暗だった。実の兄にまで手を掛ける紗枝に、響は呆れたような声を出す。
「オメエ、悪魔だな。」
「貴方に言われたくないですよぅ。」
わざと甘ったるい声を出して紗枝は微笑んだ。これが同族嫌悪なのか、と響は思う。確かにこの2人は似ていた。作った雰囲気、張り付けた仮面、距離を一定に保つ壁、どれをとっても2人は似ていた。