魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−





「あはは!ご心配ありがとうございます。」





振り返ってニコッと微笑する。


一見愛想が良くて可愛らしい彼女に騙される人は少なくないだろう。ふわふわした雰囲気に人懐こい性格。妹系の紗枝はちやほやされ根っから可愛がられる存在だ。


しかしふとした瞬間。


――――――ほら。





「うふふ。でも紗枝は、」





真っ黒い兎に変わる。





「響先輩みたいに馬鹿じゃないんで。」





そう言ってシニカルに笑うと紗枝は屋上を去って行く。


遠退く足音に、仮面を貼り付けていた響は、それを剥がし無表情になる。


それからジッと静かに屋上の扉を見た後『クックッ』と笑い、肩を震わせた。





「――…随分と生意気な兎じゃねえの。」





紫煙が消える。そしてジュッと掌が焼けた。掌から滑り落ちたのは――――煙草。


それを踏みつけると男はまた中庭を睨むように見据えた。








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