魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−





「(こんな、声さえなければ、)」





ギギギと引っ掻く。





「(誰も、傷付かない?)」





皮膚が剥がれて血が滲む。





「(声なんて無くなればいいのに。)」





痛みと引き換えに平凡な日常を返して欲しかった。


ただ、このめまぐるしい日々から、得体の知れない恐怖から、泣きたくなるくらいの不安から、解放されたかった。


しかし喉を引っ掻く凛を、彼女が見逃すわけがない――――‥。
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