魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−
「自分を傷付けないでください。」
「私のせいで傷付いてるかもしれない人達がいるの…っ」
「知りませんよ、そんなの。」
無表情で自分を見下ろす紗枝に凛はゾッとする。
その目は響と似ていた。ただ一点を見つめる瞳は、凛以外、映っておらず、まるで世界には己と凛にしか居ないと語っている目だ。
「他がどうなろうが紗枝には関係ないんですよ。」
「でも…っ」
「紗枝は凛先輩が居ればそれでいい。凛先輩が紗枝の名前を囁いてくれたら、それでいいの。」
凛の左手首を押さえ付けていた手を退かすと、首に添えた。そしてゆっくりと這わせる。
「凛先輩は自分の影響力を知らなさすぎます。それが凛先輩の罪です。だから、罠に陥る。」
「私の、罪……」
「平凡なんて言葉、凛先輩には不似合いですよ。凛先輩は愛されるべくして生まれてきたんですから。」
「……なに言って、」
「ほら。自分がどれだけ愛されてるかも凛先輩は知らない。貴女は罪の塊だ。狂わした以上、愛を与えなければいけない。でも貴女は野放しにしてきた。だから餓えた奴等が今になって唸る…!」
徐々に皮肉めいた言葉遣いになり、早口になっていた。最後は振り絞るように叫んだ紗枝は、凛の顔擦れ擦れに拳を落とす。