魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−





真横に落ちてきた拳は土にめり込んだ。





「ムカつく…!」

「…」

「ムカつく!ムカつく!ムカつく!」





声を荒げる紗枝を凛は心配そうに見上げていた。僅かに湿った土のせいでワイシャツがじわじわと濡れていくことも気に止めなかった。

そしてふと正気じゃない紗枝は凛の首に手を回す。





「さえちゃ…!」

「どいつもコイツも本当にムカつく!凛先輩は紗枝のことだけ考えてれば良いのに!邪魔ばっかり!」

「くっ…るし…っ」

「凛先輩だって早く気付いてよ!自分の周りを見れば分かるじゃない!どれだけ異常なのか!何で分からないの!?紗枝はただ凛先輩に傷付いて欲しくないだけなのに!」

「…っあ、ぐ、」





気が遠退いて紗枝の言葉の半分は耳に入らない。しかし薄らと聞こえてくる声は矛盾が生じる。


傷付いて欲しくないのに現時点で凛は傷付いてる。紗枝は自分が凛を苦しめてること気付いていない。
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