魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−
カツン…と放送室に踏み込んだ足が音を立てる。
捺は背を向けているため“彼”の姿は見えていない。
それでも足音が聞こえた筈なのに凛を離そうとしない。
突然現れた“彼”の存在、に顔を強張らせる。
即座に凛は思う。
やってしまった、と。
紫煙が揺れる。
凛の瞳も揺れる。
恐怖・動揺・不安・負の情が心の波を掻き立てる。
彼と目が合わさり、怖じ気づいた凛はソッとYシャツから手を離した。
「な〜に遣ってんの?」
ヘラヘラと笑う“彼”
「俺も交ぜろよ」
紫煙が消えた。
“彼”が口許に宛がっていた煙草を壁に擦り付け火を消したからだ。口は歪んだ三日月を象る。
凛は相当“彼”の機嫌が悪い事を悟る。その原因が“この状態”である事も。