魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−
いくら凛が小さく独り言を呟いたとしても浴室はよく響き渡る。
そして扉の前に佇む彼に聞こえない訳がない。
何より凛が何気無く呟いた一言は彼にとって禁句同然の言葉だった。
「ひ、びき、」
直接聞く彼女の声はくぐもっていなかった。そしていつ巻いたのやら、タオルが身体に巻かれていた。
白い肌に張り付く黒髪は彼女を妖艶にさせる。湯気で視界は悪いが響の目は確実に彼女を捕らえた。
「―――凛チャン。」
浴室に足を踏み入れる響の目は、これまでにないくらい冷たく憎悪が籠っていた。
ピチャッと鳴る水の音が不気味で凛は肩をビクつかせる。
「なぁ。アイツの方が良いって、マジで言ってンの?」
後退りする凛はガタガタと震える。しかし狭い浴室に逃げ場などなく凛の背は、壁につく。
「ひゃっ…!」
冷たいタイルの感触に凛は悲鳴を上げる。しかしタイルから離れることはしなかった。それは目の前に響が居るからだ。