魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−





パッと髪から手を離した響。


重力に従って髪は下に落ち、膝はタイルに付く。


いきなりのことで受け身が取れず膝に衝撃が走った。


ズキズキと痛む膝の皿に耐えながらタイルに手を付きまえのめりになる。


凛を見下ろしたあと労るもせずに響は浴室から出る。


彼の背中を見ながら凛は色んな痛みに耐える。お腹、膝、背中、そして何より――――心の痛み。


響が可笑しいのは今に始まったことではない。けど彼の本意を聞くのはいつになっても慣れない、と凛は思った。


背筋が凍るような、秘められた心の内。それを覗かせる度に凛は恐怖に苛まれる。
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