魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−
「…響」
「ん?」
自分に抱き付く響の髪を撫でながら名前を囁く。
甘い声で聞き返す響は、捺と掛け合いをしていた時とは偉く違う。
預ずかっていた、懐かない猫が、漸く主人の元に帰ったみたいに。
実際この遣り取りは今日が初めてではない。凛が男からちょっかいを掛けられる度に響は凛を責めるからだ。
その度にこうやって凛は響の顔色を窺いながら機嫌を取る。
「…捺君とはそういう関係じゃないよ?友愛の抱擁なの」
「……」
「…響、」
「…次は、無いから」
そして結局響が折れる。彼は幾度となく“次”と言葉にしてきた。しかし酷いときは―――――口に出す事すら悍ましい。
故に凛は常に響の癪に障らないよう気遣う。それを知っている捺は溜め息を付いた。