魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−





「……し、」





『死んで』と言いたかったが凛は直ぐに口を噤ぐ。憎悪よりも少しの理性が勝った。


汚いと、思っていた。


『死ね』と言う言葉が。


簡単に言ってはイケない言葉を口にすることを嫌った。


なのに、その言葉を口に出そうとした凛は想像以上に、憎悪の念を抱いている自分に気づく。





「……ぁぁア…ッ!」





憎悪に飲まれたくない。しかし込み上がるのは怒りと悲しみばかり。ただ凛は、泣くだけしか出来なかった。シーツに顔を埋めて肩を震わせる。


今になって彼に殴られた箇所が、ジワジワと痛み出す。その上には赤いマーキングが付けられていた。今なら、もう一度だけ殴られても良いと、凛は思った。
< 223 / 317 >

この作品をシェア

pagetop