魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−
「幹久先輩は…その…」
襲った相手が妹だと知る幹久に凛は言いづらそうに尋ねる。しかしよくよく考えて見れば紗枝は普通に凛と幹久の見舞いに出向いていた。それも笑顔で。きっと紗枝は、幹久が事実を知ってることを、知らないのだろう。
「腐ってもアイツと俺は兄妹だ。態々問い詰めてギクシャクする必要もないだろ。」
それが兄ゆえの厚意と言うことも。
「羨ましい、です。」
紗枝のために、そして自分のために、黙っておく決断をした幹久に、凛は呟いた。
襲われた幹久は見舞いにきた紗枝と何の隔てもなく接していたことを思い出す。
「アイツを見る目が変わるか?」
「分からない、です。分からないですけど“何も知らなかった”頃のままと同じは無理だと思います。きっと、少しは……軽蔑してしまいそうで、怖い。」
「…そうか。」
凛の言葉に、幹久はすんなり納得する。それは凛にとって意外だったのか、目を見開いた。