魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−
最近色々あったため、課題なんてすっかり頭から抜けていた。ただそれだけ。しかし『色々あった。』と軽々しく言えることではなく凛は言葉を濁しながら誤魔化した。
「…村上先生はどうして学校に?」
「俺か?」
わざとらしかったかもしれない、と懸念しながらも凛は聞く。
「俺は忘れ物を、な。」
爽やかに笑いながら言った村上先生。しかし肝心なところは曖昧にされたため凛は小首を傾げる。それはただ、何気無い疑問だった。
「忘れ物を取りに来たんですか?」
「いや。逆だ。」
「逆?――――置きに?」
キョトンとして言った凛に村上先生は否定しなかった。しかし肯定もしなかった。ただ笑うだけ。
もしかして聞いたらイケなかったのかもしれない。と思った凛は、気まずそうに目を逸らした。