魅惑ボイス−それを罪と呼ぶのなら−
「…鼠か?」
確かに薄汚い裏道に鼠が居ても可笑しくはない。その言葉を聞いた凛はホッと胸を撫で下ろした。両手を離した口元は、安堵から微かに緩んでいる。
さっさと心から逃げようと、目をパチッと開けて顔を上げた―――――――そのとき。
「なぁ〜んてね。」
「ひっ!」
ひょこっと響が現れた。
顔を上げると、目の前に響の顔があり、か細い悲鳴を上げる。
咄嗟に押さえた口元は震え、歯がガチガチと鳴る。凛は顔面蒼白で目の前に佇む響を見つめた。
「俺が凛の気配に気づかないわけないだろ?」
「…っ、」
「姿を眩まそうとするなんて酷いじゃねえの。」
一向に身体の震えは治まらない。見下ろしてくる響の冷たい目に、肩が飛び上がる。